【実践コラム】銀行と企業の関係は「敵対」か?
(毎週木曜日配信)財務編
銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー
尾川充広
…誤解や行き違いで社長様ご自身が不利益を被っているかもしれません
ある社長様が怒った様子で電話をかけてこられました。以下の内容です。
「銀行が急に前社長への貸付金を回収しろと言ってきた。『回収は難しい。』と伝えたところ、『回収出来ないならば前社長の株式持ち分を会社が自己株として買取り、その買取り資金と相殺してはどうか。』とまで言ってきた。銀行は何の権限があってそのようなことを言ってくるのか・・・」
一見、銀行は厳しいことを言っているようにも聞こえますが、実は、本件に関する銀行のスタンスは決して「敵対」ではありません。格付を悪化させないための提案です。会社と銀行は同じ目的を共有しているはずですが、このような行き違いは至るところで起きています。
銀行は、会社が第三者に融資することや、使途不明金である仮払金を増やすことを嫌います。
会社に事業資金として融資したはずのお金が、第三者に流れることを嫌うからですが、それ以外にも、金融庁のルールに沿って資産査定を行う際、貸付金や仮払金は「資産性なし(回収の可能性なし)」と判定せざるを得ないためです。
資産性がないと判定されれば格付が下がります。格付が下がると、その企業に対して融資が出来なくなるだけでなく、銀行は新たに引当金を積まなくてはなりません。引当金を積めば銀行の収益が悪化するため、銀行は融資先の格付を下げたくないと考えます。この点においては、銀行と企業の利害関係は一致します。
今回、突飛な改善要求であり、社長様が困惑するのも当然ですが、会社の格付を下げないために、銀行側が知恵を絞った結果、出てきたアイデアだったと思われます。ではなぜ、これまで容認されていたのに、急に改善を要求されたのでしょうか。
- 「貸付金や仮払金の資産性はない」と判定されても、格付に影響がないぐらい財務内容が良い場合は、銀行側は警告程度で済ませるのが一般的です。(とりあえず容認)
- 「貸付金や仮払金の資産性がある」と判定されたところで、格付に影響がないぐらい、元々の財務内容が悪ければ、銀行側は何も言ってこないと考えます。(改善の可能性なしと判断)
- 「貸付金や仮払金の資産性がない」と判定されれば、格付が下がってしまうボーダーの場合は、知恵を絞って何らかの改善を要求してくる可能性があります。(改善の可能性ありと判断)
当社は、前年までは十分な財務内容を有していましたが、今回の決算でボーダーラインに落ちてしまったと考えられます。
お金を借りている立場からすると、銀行の言動は大変気になります。
社長様も「銀行が融資を引き上げるために、難癖をつけてきたと思い怒ってしまった。」とおっしゃっていましたが、敵対していると勘違いして突っぱねると、自分の首を絞めることになります。
本件は、「将来的にはおっしゃる通りに返済をしてもらうことで内諾を得ています。」と回答して決着しました。
尾川充広(銀行融資プランナー協会 財務アドバイザー)