【実践コラム】銀行員は目で見たものより書面を信じるのか?
…決裁者には社長や現場の雰囲気を感じ取る手段がありません
先日、弊所が財務部長の代行を務めるA社の事務所兼倉庫にて、金融機関の現地面談を受けました。その金融機関とは初めての取引となるため、融資審
査の一環として、上司と一緒に訪問したいとのご依頼でした。
現地面談とは、新規取引を始めるにあたり、「異常がないか実際に現場を確認しておこう。」という程度のものです。そこまで厳しいチェックを受けることはありません。初めて現地面談を受ける時は、「ごみがひとつでも落ちていないように・・・」等と身構えてしまいますが、普通にしていれば問題はありません。
当日は、担当者と融資課長の2名で来社されました。「まずは会議テーブルで軽く雑談をした後、オフィスや倉庫を案内して回る・・・」という段取りで考えていましたが、テーブルに着くとすぐに、先日提出した在庫表を持ち出して融資課長が話を始めました。
「決して在庫が多いとは思っていないのですが・・・」と前置きしながら、「数量が多い順に並べ替えたデータは出せないか。」とか、「この商品について過去からの推移は出せないか。」等、あれこれと資料を依頼してきます。言葉の端々から、A社の在庫について懐疑的であることが感じられます。
在庫の実在やデッドストックの有無を知りたければ、資料をあれこれ調べるよりも、倉庫を見た方が確実です。大体の在庫の数量は分かりますし、最も量の多いアイテムを見れば、それが売れ残っている商品か、もしくは1年先まで売れる定番商品かが分かります。しかし、融資課長は最後まで倉庫を見に行きませんでした。
せっかく現地まで来ておいて、現物を見ずに帰っていく融資課長の態度に少し腹が立ちましたが、同時に、金融機関にとって最も重要なのは、「書面」であることに改めて気づかされました。融資課長は、決裁者に自分が見てきた話をするよりも、書面やデータで説明した方が有効であると考え、書面の収集に固執したように感じます。
銀行に融資を申し込む際、資料を作って説明するのは手間がかかるため、口頭で説明して済ませた経験のある経営者様も多いと思います。しかし、いくら目の前の担当者に理解してもらっても、決裁者を理解させないと融資は出ません。会って説明することの出来ない最終決裁者に情報を正確に伝えるためには、やはり書面が有効です。