【実践コラム】自己資本比率と事業の関係について


…自己資本比率至上主義への対処方法を考えます

金融機関、特にメガバンクは決算書から導き出される様々な財務指標を重視しています。その中で、最も重要視している指標は、自己資本比率です。自己資本比率とは、総資本に対する自己資本の割合で、比率が高い方が良いとされています。

自己資本は、資本金と累積利益の合計ですので、増資をして資本金を増やしたり、利益を積み上げたりすることで増加します。
しかし、自己資本比率は、総資本に対する自己資本の割合ですので、自己資本が増えても、それ以上に負債が増加すれば、相対的に自己資本比率は低くなってしまいます。

金融機関やコンサルタントの目線から見れば、自己資本比率が高い会社の方が良い会社ですので、「自己資本比率を上げましょう。」という指導になります。しかし、実際に経営を実践している経営者様は、自己資本比率を気にしていては、会社を成長させることができないことを本能的に知っているはずです。
自己資本比率は「結果」であって経営の「目標」にするものではありません。

自己資本比率を上げることを目標として経営するならば、非常に消極的な経営を強いられます。「他人の資金を活用して新しい事業を創造する。」といった事業家として当たり前の行為が、自己資本比率を下げる要因になるためです。自己資本比率を高く維持したければ、自己資本の範囲内で小さな商売に徹するか、そもそも会社を作って何もしなければ、自己資本比率は100%のまま維持できます。

政府は盛んに投資の拡大を推進しています。自己資本の小さな中小企業が投資を行うためには、借入が必須のはずですが、一方で、金融庁や中小企業庁から出てくる施策には、残念ながら、自己資本比率を重視したものが多く見られます。自己資本の小さな中小企業を自己資本比率で縛ってしまっては、投資の拡大など期待できないと個人的には考えますが、評論家ではありませんので、このような環境の中で、どのような経営を実践すべきかを考えたいと思います。

事業と自己資本比率の関係は、借入と投資を実行して一旦自己資本比率を悪化させることから始まり、やがて投資が実ることによって自己資本が充実する。というサイクルで成り立っています。経営者として最も注意すべきポイントは、投資をして自己資本比率が下がっている段階においては、資金調達が非常に難しいという現実です。自社の事業規模と調達力を見極め、資金が途切れないようにしなくてはなりません。

しばしば見かける間違った企業様の例です。
自己資金が1,000万円、調達力が2,000万円であるにも関わらず、黒字化までに5,000万円必要なビジネスに取り組んでいます。自己資本比率が悪化している真っ只中に資金が切れますので、追加の資金調達ができずに苦労してしまいます。

「最初に3,000万円で黒字化できるビジネスをデザインすべきだった。」というのが正解ですが、自社のビジネスがどの程度の資金を要するのか、また、自社の調達力がどの程度なのかが分からなくては、そもそも正解を導き出すことはできません。

自社のビジネスに要する資金の見積もり、自社の資金調達力の把握は、一定の経験と知識が必要になります。是非、貴社のビジネスモデルをお聞かせください。