【実践コラム】本田宗一郎氏は銀行対応をしていたか
…社長の本来の仕事は顧客と向き合うことです
尊敬する経営者に本田宗一郎氏を挙げられる方も多いのではないでしょうか。
修理工から身を起こし、一代で世界のHONDAを築き上げた本田氏は、徹底して技術開発の現場に拘ったことで知られています。
本田氏の技術開発に対する情熱が、現在のHONDAブランドを築き上げたと言っても過言ではありません。
経営者が商品やサービスの開発に心血を注いでいる企業は魅力的です。
顧客のニーズと合致すれば営業面でも大きな成功を収めることが出来ます。
しかし、いくら商品やサービスの重要性が分かっていても、中小企業の経営者が、一日中商品やサービスの開発に明け暮れることは困難です。
理由のひとつは資金の問題です。
溢れ出るアイデアを形にするには資金が必要です。
中小企業の場合、メインの調達先は銀行になりますが、専門的な財務知識等を要するため、
満足に調達出来ないケースも少なくありません。
もうひとつの理由は時間です。
中小企業の経営者は一人で何役もこなしています。
前述の資金調達にしても、会計書類を揃えたり、計画書類を作成したり、多くの時間を要します。
商品やサービスに対する情熱があっても、資金と時間の壁に阻まれているのが現状です。
それではなぜ本田宗一郎氏は技術開発に明け暮れることが出来たのでしょうか?
藤沢武夫著「経営に終わりはない」によると、本田氏は、藤沢氏に印鑑を預けて財務と営業を任せたとあります。
これは、会社が大きくなってからの話ではありません。
創業当時、まだHONDAが中小企業だった時の話です。
以降、藤沢氏が資金調達と営業の役割を担い、本田氏が現場で技術開発の役割を担いました。
本田氏にとって、藤沢氏のような財務のプロフェッショナルと出会えたことは幸運だったかも知れませんが、藤沢氏に財務と営業を任せきったところに、本田氏の器量の大きさがうかがえます。
中小企業の経営者(創業者)に第一に求められる役割は、商品・サービスの開発や営業など、顧客に対して影響力を発揮することです。
資金調達も大変重要な業務ではありますが、それ自体が利益を生むものではありませんし、専門性の高い分野ですので、本田氏のようにプロに任せてしまうのが確かに合理的かもしれません。