【実践コラム】中小企業の人材投資


…最大限の投資効果を得られるよう努力を払いましょう

会社が行う投資の中で最も高額なものは人材投資です。新卒社員を定年まで雇用すると数億円の投資になります。そして、最も投資効果を測りにくいのも人材投資です。

機械等への投資は、一定のパフォーマンスが確実に見込めます。大きくぶれることはありませんので、投資効果の将来予測も簡単です。人材への投資は、A社員とB社員を同じ条件で雇用したとしても、そのパフォーマンスは大きく違う可能性があります。

適正な人件費を測る指標のひとつに労働分配率があります。付加価値に占める人件費の割合で、人件費が多いか少ないかを判断するものですが、付加価値額との相対的な指標であり、また、事業の立ち上げ期なのか円熟期なのかといったライフサイクルによっても評価が変わりますので、人件費そのものが適正かどうかは判断できません。

「良い人材」とは会社にとって重要な「資産」です。しかし、機械の様にバランスシート上に資産として表示されませんので、財務戦略上は軽んじられる場合があります。「収益力回復のために各人の人件費を10%カットする。」というのは簡単に導きだせる理屈ですが、10%の人件費カットが優良な資産を大きく劣化させる危険性もあります。人材の層が厚い大企業よりも中小企業の方がより大きな影響が現れます。

反対に、10%の人件費増加でそれ以上の資産価値上昇をもたらす可能性もあります。2億円で購入した人材が、やり方次第で3億円の価値になるかもしれません。3億円の機械は、3億円の資金が無ければ買えませんが、3億円の価値がある人材は、2億円で買える可能性があります。人材投資の面白いところです。

中小企業の事業がスケールしない理由のひとつは人材不足です。
高額な報酬を払えない中小企業にとって、雇用した人材が投資額以上のパフォーマンスをあげられなければ、飛躍的な成長は難しくなります。

まずは人材を確保するための資金調達が必要ですが、調達した資金を効率よく人材に投資する仕組みやノウハウの構築にも最大限の努力を払う必要があります。過度に慎重になる必要はありませんが、深く考えずに人材投資を行って失敗すれば、その後の成長に小さくない打撃を受けます。