【実践コラム】銀行格付が年商3億円未満の中小企業に与える影響


…1億円までの調達は格付をあまり意識する必要はありません

飲食店を複数店舗営む関与先様の例です。
銀行から融資を受けて新店を出店しましたが、出店に伴い一時的に経費が増加した他、当初の想定どおりに売上が伸びなかったため、翌期の決算は赤字、債務超過に陥りました。

また、新店の赤字により資金繰りも苦しくなったため、金融機関に融資を申し込みましたが、銀行筋からは全て断られ、最終的には日本政策金融公庫だけが融資に応じてくれました。
なぜ金融機関によって対応が違うのでしょうか。

対応の違いを検証する前に、まずは調達手段の種類を整理します。
中小企業の主な調達手段は下記の3つです。

・民間金融機関からの借入れ(プロパー融資)
・保証協会保証付き民間金融機関からの借入れ(保証付き融資)
・日本政策金融公庫からの借入れ

民間金融機関からの借入れ(プロパー融資)は、「銀行格付」に大きく影響されます。
銀行格付とは、銀行が融資先の倒産確率を算出してランキングしたものです。
民間の金融機関は、金融庁の指導の下、格付の運用を厳格に行っているため、格付が低い企業に対しては実質的に融資が出来なくなります。
同社が融資を断られたのも格付の悪化が要因です。

プロパー融資以外の調達手段としては、保証付き融資と日本政策金融公庫の融資があります。
いずれも国の機関ですので民間の金融機関ほど格付に縛られてはいません。
審査がずさんという事ではなく、決算内容だけで機械的に判断されないという意味です。
特に日本政策金融公庫は取引実績を重視するため、既存借入れの返済状況が良好であれば、同社のように債務超過であっても新規融資を出すケースは良くあります。

対応の違いは格付制度の違いであることが分かりましたが、中小企業は格付をどの程度意識すべきでしょうか。格付に関するテクニカルな情報なども出回っており、格付対策をすることで融資をたくさん受けられるように錯覚してしまいますが、実際は、あまり格付を意識する必要のない日本政策金融公庫の無担保融資枠が2,000万円、保証協会の無担保融資枠が8,000万円用意されています。中小企業のうち、年商3億円未満の企業が90%超を占めると言われていますので、殆どの中小企業は政府系の金融機関が用意する1億円で用が足ります。
格付を気にする必要はありません。

また格付は、利益を出して純資産を増やせば自然に上がる仕組みになっています。
細かな指標を意識して格付を上げることに悪戦苦闘するより、しっかりと利益を上げることに専念し、
まずは政府系の金融機関ときっちりお付き合いすることが大切ではないでしょうか。