【実践コラム】帳簿のつけ方が悪いために融資を見送られた事例
…税金の計算は1年間の利益、経営や財務の判断は毎月の利益で行われます
ある社長様が相談に来られました。
資金繰りが厳しいので融資を受けたいとのことです。決算書を拝見したところ、売上が大幅に増加しており利益も出ています。
取引条件をお聞きすると、仕入は現金で販売は掛売との回答でした。資金繰りが厳しい要因は、売上高の増加による増加運転資金の発生であるとすぐに分かります。
売上の増加に伴う資金不足は前向きな事象です。金融機関も喜んで応じてくれる場合が多く、当社も保証協会の保証付きで融資を申し込みました。断られることはない、と高をくくっておりましたが、結果は「もう少し様子を見たいので今回はお見送りで・・・」との回答でした。
どうしても納得が行かなかったため、担当者に理由を何度も問いただすと、「売上高が怪しい」と見られていることが分かりました。
保証協会は過去6カ月程度の月別売上高を確認します。
月別売上高は、税務申告資料の一部である法人事業概況書に記載がありますので、金融機関の担当者は、その数字を保証協会に報告したようです。
法人事業概況書に記載されている月別売上高は、会計ソフト(帳簿)から転記されるのが一般的です。当社の会計ソフト(帳簿)上の月別売上高を見ると、決算月の売上高が他の月に比べて倍増していました。保証協会は、当社が好決算を演じるために、決算時に架空売上高を計上したのではないかと怪しんでいるようです。
社長様にお聞きすると、特に決算月に売上高が倍増した記憶はないが、架空売上高を計上した覚えもないとの事でした。
さらに原因を探るために総勘定元帳を調べたところ、当社は、普段は現金主義で売上高を計上し、決算月に発生主義の売上高を加えていることが判明しました。
売上代金を受け取った時点で売上高を計上するのが「現金主義」です。
一方、モノやサービスを提供した時点で売上高を計上するのが「発生主義」です。
社長様によると、発生主義で売上高を計上するのは手間であるため、普段は入金があった金額を売上高として計上し、決算の時に税理士さんが発生ベースの売上高を足している、とのことでした。
帳簿は発生主義でつけるのが原則です。当社のような掛売の場合、現金主義で帳簿をつけると売上高が1か月ずつ遅れて計上されます。よって決算月は1か月遅れで計上された前月の売上高と、当月発生した当月売上高の2か月分が計上されることになります。
税金の計算は年ベースで行いますので上記の対応で問題ありません。
しかし、経営や銀行の目線で見ると、毎月の利益状況が正確に把握できません。
当社は、追加で正しい月別売上高と、期末売掛金の回収状況を報告することにより、最終的には融資を受けることが出来ましたが、当初の申し込みから4か月も時間を要してしまいました。
会社の事業実態は何ら問題が無いのに、帳簿のつけ方が悪くて融資を受けられないなど、決してあってはいけないことです。
しかし、中小企業の資金調達の現場では、このようなことが頻繁に起きています。
当事務所は、税務だけでなく、経営や銀行の目線で会計数字をお預かりしている税理士事務所です。
つまらないことで経営危機に陥らないために、弊所とのお付き合いをご検討ください。