【実践コラム】借入を活用して手元資金を増やす方法


…「手元流動性を増やすため」という資金使途は存在しません

コラムをよく読んでいただいているお客様から次のようなお話がありました。

「先日融資を申し込みに行った際、資金の使い道を聞かれたので、『手元資金を増やすため。』と答えた。すると担当者から、『そのような目的での融資はできない。』と言われた。このコラムではいつも、借入を活用して手元資金を増やすようにと言っているが・・」

おっしゃる通り、実は、「手元資金を増やすため」という融資目的は銀行にはありません。借入をする企業側から見ると、なぜ「運転資金」なのに借してもらえないのかと不思議に感じるかもしれませんが、銀行側では、「運転資金」の定義が明確に決められており、「手元資金を増やす」というのは、この運転資金の定義から外れています。

なぜ銀行は運転資金を定義して、それ以上の融資をしないようにしているのでしょうか。理由のひとつは、もし、「手元キャッシュが潤沢にあり、設備投資も全く行う予定がない。」という企業に融資をした場合、余った資金が株式や不動産などの投機に流れ、バブル景気を誘発する可能性が高まります。また、見方によっては、銀行は強い立場を利用して、お金のいらない企業に無理やり融資を受けさせていると捉えられる可能性もあります。

よって、銀行がプロパーで運転資金を融資する場合は、その企業が本当に必要な経常運転資金の額を算出し、この金額を大きく超えないようにします。以下はプロパーで運転資金の融資を検討する場合の稟議書の記入例です。

【資金使途】
(2017年1月期 貸借対照表より)
所要運転資金6,000万円=営業上の売上債権5,000万円+棚卸資産3,000万円-営業上の買入債務2,000万円

【調達方法】
所要運転資金の調達6,000万円=既存貸出3,000万円+本件貸出3,000万円

このように、本当に必要な経常運転資金の額を算出するため、実需の範囲内でしか融資を受けられません。よって、プロパー融資で手元資金を増やすことは理論上困難です。

しかし、日本政策金融公庫や保証協会の運転資金の考え方は全く違います。こちらの運転資金の考え方は、「月商の〇か月分」というものです。業種や経営成績にもよりますが、概ね2か月程度です。保証付き融資で運転資金の融資を検討する場合の稟議書の記入例は以下となります。

【資金使途】
仕入、人件費などの諸払いに充当

【調達方法】
本件により全額

プロパーに比べると大変アバウトです。月商の2か月をベースにしているため、実際に必要な経常運転資金の額より多くの融資を受けられる可能性があります。

以上のことから、借入を活用して手元資金を増やす最良の方策は、実際に必要な運転資金はプロパー融資で調達することです。そうすれば、日本政策金融公庫や保証協会の借入は、理論上、その分が全額手元資金に上積みされます。